NHK「母乳ブームのかげで」を見て

 先日、NHKの目撃!日本列島「”母乳ブーム”のかげで~追い詰められる母親たち~」と言う番組が放送されました。ご覧になった方も多いかと思います。この中では、出産して肉体的にも精神的にも大変な時期に「母乳!母乳!」と言われて、いくら頑張っても結果が出ず落ち込んでしまったり、周りの人にも責められるような言葉を掛けられて、つらい思いをしたり、結局母乳を諦めてしまった方や、うつ状態になった方の話が取り上げられていました。

 確かに、30~40年前に比べると、母乳に対する意識が高まり、医療者側もお母さん達も「母乳を飲ませよう!」という意気込みは強くなってきています。それはとっても良い傾向だと私も喜んではいるのですが。しかし、良い母乳を出せる体というのは、一朝一夕には出来ません。多くの方は(医療関係者も含め)赤ちゃんを産んだときが母乳のスタートで、ゼロ地点、皆同じ様に出せる様になるとなんとなく思われているようです。赤ちゃんを産んでおっぱいを吸わせれば母乳が出て、赤ちゃんはおりこうさんにしていてくれるはず・・・。少しぐらい苦労するかもしれないけれどちょっと頑張れば上手くいくはず・・・と。

 いえいえ、上手くいく人もいますが、なかなか現実は、そう簡単に上手くいかない人も沢山います。何せ相手は、「ややこ」ですから、「ややこ」とは京都弁で赤ちゃんの事です。「やや」とか「ややこ」と言います。これは「ややこしい」の語源です。テレビで見ているかわいい笑顔の赤ちゃんは生後3ケ月以降の子が多く、生まれたての赤ちゃんは、夕方にやっているめばえ(読売テレビのTen.)ぐらいです。ですから、実際の赤ちゃんにあまり接した経験の無い方は、眠っているか、ニコニコしている赤ちゃんを想像して出産してしまいます。けれど、生まれてしばらくは、よく泣きます。泣きのピークは生後6週間目頃(生後1ケ月半)らしいのですが、特に夕方から夜にかけてよく泣きます。それに容姿も客観的に見て、可愛くないし。反応も薄いし。ニコニコしたり、反応したりしてくれるのは生後3ケ月近くになってからです。そんなややこしい人と24時間付き合うのですよ。いきなり上手くいく訳がない。そして、母乳だって、急に3時間のペースで上手く足りるわけではありません。以前にも書きましたが、誰だって「3ケ月までは練習中」なのです。足りなかったり、上手く吸い付かせられなかったり・・・。

 あなたは自分が生まれてから、特に、思春期頃から出産するまでの間、健康な赤ちゃんを産む為の、そして、良い母乳を出す為の良い身体作りをしてきましたか?今まで一生懸命生きて来られたでしょう。色んな事に努力して、でも、それはおっぱい向きではなかったかもしれない・・・。

 体が冷えている。肩が凝っている。腰や体のどこかに支障がある。疲れやすい。自律神経やホルモンバランスが乱れている。夜遅くまで起きてる。脂質や糖分の多い物を沢山食べている。タバコを吸っている。食事をしっかり食べていない。栄養のバランスが悪かったり、体を冷やす食事をしている。仕事で体がクタクタ。精神的ストレスの多い生活をしている。等々、長年やってきた体に悪い事は、おっぱいにも悪影響があります。良い母乳を出せる身体は、一朝一夕で作られるものではないのです。産んだ時がゼロのスタートではないのです。ところが、「赤ちゃんを産んだら上手く吸ってくれて、そのうち沢山出てくれるはず」と思っている人が多いので、上手くいかないと「こんなはずは無い!頑張らなくては!!」と短期間で成果を求めて、結果を出せず、自他共に過剰な負担をかけてしまいます。

 でも、体やおっぱいは、すぐには変わらないから、適切な手技や指導を受け乳房の状態を良くしつつ、今までの生活を見直し改善しながら、赤ちゃんへの理解を深めながらこつこつと吸わせていくしかないのです。それでも、母乳が足りない時には赤ちゃんの母乳への意欲を減らさない程度、おっぱいを邪魔しない程度にミルクを足していけば良いのです。その為のミルクですから。

 しかし、しかし、私がこの番組を見て一番つっこみたいのは「母乳ブーム」という番組タイトルです。「母乳ブーム」って?!何ですか?「ブーム」とは「にわか景気、またにわかに流行りだすこと」とあります。母乳を飲ませるってそういう類のことでしょうか?人間は哺乳類ですよね。哺乳類って母乳を飲ませて育てる動物ですよね。それが上手く出来なくなって来ているのなら、現代の日本人の体や生活が、動物としての「人間」としてはおかしくなってきているという事ではないでしょうか?本来の動物としての「人間」の生活からは、だんだん遠ざかった生活をいているから、本来誰でも出来るべき事が出来ない体になって来ているということでしょう。自然に妊娠出来ないのも同じでしょう。

 それに、母乳と人工乳(ミルク)を同一線上に並べて「ブーム」ととらえる感覚自体がずれて来ている証拠かもしれません。しかも、日本語のお手本を示すべきNHKが制作された番組タイトルがこれですから。